「英語で学んでいるのだから、日本語で説明しない方がいいのかな」
「家ではできるだけ英語で話した方がいいのだろうか」
海外の学校やインターナショナルスクール、現地校に通う子どもを育てていると、そんな疑問を持つことがあります。
特に、子どもが授業内容を理解できていないように見えると、「もっと英語に触れさせなければ」と焦ることもあるかもしれません。
また、おうち英語に取り組んでいるご家庭や、複数の言語環境で育つ国際家庭でも、「母語と英語のバランス」に悩むことは少なくありません。
もちろん、英語に触れる時間は大切です。
しかし一方で、言語教育や第二言語習得研究の分野では、子どもが学習内容を理解する際に、母語や得意な言語が重要な役割を果たすことが指摘されています。
実は、「英語で学ぶこと」と「英語で理解すること」は、必ずしも同じではありません。
では、英語で学ぶ子どもにとって、母語はどのような意味を持つのでしょうか。
今回は、英語で学ぶ子どもたちを支える「母語の力」について、第二言語習得研究の視点から考えてみたいと思います。
概念の理解と英語習得は別のもの
例えば理科で「水の循環」を学ぶ場面を考えてみましょう。
雨が降り、川に流れ、海へ行き、蒸発して雲になり、再び雨として降る。
この仕組みを理解することと、
“water cycle”(水の循環)や “evaporation”(蒸発)という英語の言葉を覚えることは、実は別の作業です。
前者は概念理解、後者は言語習得です。
私たちは新しい知識を学ぶとき、すでに持っている知識や経験と結びつけながら理解を深めていきます。
そのため、学習者が最も理解しやすい言語を使って概念を理解することは、ごく自然な学習プロセスだと考えられています。
母語は「学びの土台」になる
※本記事では、便宜上「母語」を子どもが最も理解しやすい言語、あるいは家庭の中で土台となっている言語という意味で用いています。国際家庭や複数言語環境で育つ子どもの場合、母語は一つとは限りません。日本語・英語・現地語など、複数の言語が母語として機能することもあります。
教育学者の ジム・カミンズ は、複数の言語能力は頭の中で完全に別々に存在しているのではなく、共通の認知的基盤を共有していると説明しています。
この考え方は「共通基底言語能力」として知られています。
つまり、ある言語で理解した知識や概念は、別の言語で学ぶ際にも活用されるということです。
子どもが得意な言語で理解した科学的な概念や歴史的な知識は、英語で学ぶ際にも土台として機能します。
英語で学ぶ子どもが抱える二つの課題
英語で学ぶ子どもは、しばしば二つの課題に同時に向き合っています。
一つは、学習内容そのものを理解すること。
もう一つは、その内容が書かれている言語を理解することです。
内容も新しい。
言葉も新しい。
その両方を同時に処理しなければならないため、本来理解できる力を持っていても、学習が難しく感じられることがあります。
そのため、言語教育の分野では、学習内容の理解を支えるために母語を活用することの重要性が指摘されています。
「英語だけ」が最善とは限らない
英語で学ぶ環境にいる子どもたちを見ていると、
「もっと英語を増やした方がいい」
「日本語を使うと英語が伸びない」
という話を耳にすることがあります。
しかし、英語を学ぶことと、知識を学ぶことは同じではありません。
学習内容を深く理解するためには、子どもが最も理解しやすい言語を活用することも一つの方法です。
母語と英語は対立するものではなく、互いに支え合う関係として捉えることもできるでしょう。
おわりに
英語で学ぶ子どもを見ていると、つい「もっと英語を」と考えてしまうことがあります。
けれども、一度立ち止まって考えてみたいのは、今、子どもに身につけてほしいのは何なのかということです。
英語そのものなのか。
それとも、理科や社会の内容を深く理解することなのか。
目的によって、親の関わり方や使う言語は変わってきます。
もし目的が学習内容の理解であるならば、母語や得意な言語を活用することは決して遠回りではありません。
むしろ、子どもが持っている言語資源を活かしながら、自ら理解を深めていく能動的な学びの一つと言えるでしょう。
英語か日本語か、という二択で考えるのではなく、
「どうすれば子どもがより深く理解できるか」
という視点で言語を捉えてみることも大切なのかもしれません。
それは、複数の言語の中で育つ子どもたちだからこそできる学び方なのかもしれません。

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